「あいつだけAIで早く帰れてずるい」の衝撃。職場で起きているAI格差と『新たな属人化』の正体

最近、仕事に生成AIを取り入れる人が急速に増えています。 AIを上手く使いこなして業務負荷を劇的に減らし、サクッと仕事を終わらせる人がいる一方で、最近ある「違和感」を覚えることが増えてきました。

それは、AIを限定的に使っただけで満足し、それ以上の活用に思考が至らない人たちの存在です。

「調べものが楽になった」「画像やドキュメントが簡単に作れた」 それ自体は素晴らしいことですが、そこで「あぁ、仕事が楽になったな」と完結してしまい、その先にある「業務プロセスそのものを変革する」という発想に繋がらない。

これこそが、今後のビジネスシーンにおいて「仕事ができる人」と「そうでない人」を分ける、新たな格差の境界線になるのではないかと感じています。

現場で起きている「ずるい」という同調圧力

先日、ある企業の情報システム部門(情シス)の担当者さまと商談をしていた際、非常にリアルで深刻な話を伺いました。

その会社では、AIをいち早く使いこなして圧倒的なスピードで仕事を終わらせる社員がいるそうです。しかし、それを見た周囲の(AIを使いこなせていない)社員からは、リスペクトではなく、こんな言葉が漏れてくると言います。

「あいつだけAIを使って早く帰れてずるい。自分たちはまだ仕事が終わらないのに……」

効率化して成果を出している人の足を引っ張るような、一種の「同調圧力」が職場に生まれてしまっているのです。

また、一般論として「AIを導入すれば業務が効率化する」という話は誰もが知っています。しかし、いざ会社全体に導入しようとすると、実は一部の社員しかその有効性やメリットを理解していないため、社内の合意形成(話を通すこと)がもの凄く大変なのだそうです。

「AIは便利だ」というイメージだけは全員が持っている。 しかし現実には、AIの本質的なパワーを引き出して成果を出す人と、ほんの一部の機能だけを使って満足している人、あるいは全く触ろうとしない人との間で、見えない格差が確実に広がりつつあります。を使って満足している人、あるいは全く触ろうとしない人との間で、見えない格差が確実に広がりつつあります。

人材不足を救うはずが……「新たな属人化」という懸念

日本国内の深刻な課題である「労働力・人材不足」。AIの台頭が始まった当初、私は「これで業務が自動化され、人手不足が大幅に緩和・軽減されるのではないか」と期待していました。

しかし、現実に生まれつつあるのは逆の現象です。

この「AIを使いこなせる人とそうでない人の格差」によって、「AIを動かせる特定の社員」に依存する、これまでにない『新たな属人化』が引き起こされているのではないかと懸念しています。

「あのシステムやプロンプト(AIへの指示文)の組み方は、〇〇さんしか分からない」 「〇〇さんが休むと、AIを使った高速な業務フローがストップしてしまう」

これでは、昔ながらの「職人技」がデジタルに置き換わっただけに過ぎません。労働力不足を補うためのAIが、皮肉にも「特定の人がいなければ回らない組織」を強化してしまっているのです。

ガートナーが提唱する「デジタル・デクステリティ」の本質

この現象を紐解く上で、非常に示唆に富む概念があります。ITリサーチ大手のガートナー社が提唱している「デジタル・デクステリティ(Digital Dexterity:デジタル習熟度)」という仮説です。

ガートナーは、企業の生産性を向上させる最大の要因は、単に最新ツールを導入することではなく、従業員一人ひとりの「デジタル・デクステリティ(デジタル技術を使いこなす能力と、それを活用しようとする意欲)」であるとしています。

そして、ここに組織の大きな落とし穴があります。 社内でこのデジタル・デクステリティが高い人(AIを使いこなせる人)が一部しかいない場合、その優秀な人材が、デジタルに不慣れな周囲のサポートや、非効率な業務の手戻りのカバーに多くの時間と労力を割かれてしまうのです。

その結果、前述したような「新たな属人化」が加速し、本来なら会社を大きく変えるようなクリエイティブな仕事に投資されるべきリソースが奪われ、組織全体の生産性やトランスフォーメーションが停滞してしまうというリスクに言及しています。ャーを変えていくか。そこに本気で向き合わない限り、本当の働き方改革は訪れないのかもしれません。

まとめ:AIによる「一律の底上げ」という幻想

AIという強力なテクノロジーが出現したことで、「全人類の生産性が一律に底上げされる」と考えがちですが、現実は違います。

  • デジタル・デクステリティ(能力と意欲)が高い人: AIを相棒に、さらに打率とスピードを上げていく。
  • デジタル・デクステリティが低い人: 変化を拒むか、限定的な使い方で満足し、取り残されていく。

AI時代は格差を縮めるどころか、「活用できる人とできない人の差」を指数関数的に広げ、新たな属人化を生むトリガーになり得ます。

これからの組織に求められるのは、単にAIのアカウントを配ることではありません。メンバー一人ひとりの「デジタルに対する意欲(デクステリティ)」をどう刺激し、一部の天才に依存しない組織カルチャーをどう作っていくか。そこに本気で向き合わない限り、本当の人材不足解消も、働き方改革も訪れないのかもしれません。

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